ユーコさん勝手におしゃべり

12月29日
 いつも反応が遅いうちのもみじも今月半ばから紅葉を始め、年の瀬に来てようやく散りだした。 一年が終わる。
 明日は、伸びすぎた木々の枝を剪定して、小庭もさっぱりと今年を締めよう。
 悲喜こもごも、いろいろあった一年だが、年末になると思い出されるのはやはりこの一句。

去年今年 貫く棒の如きもの  (高浜虚子)

 来年も、本と人を結ぶ良きパイプでありたいと思います。よろしくお願いいたします。

12月21日
 地元の京成電車に乗っていた。
 ドアの脇の席に座って本を読んでいると、横に立った子どもがお母さんに
 「ねぇ、浅草の花やしき、行きたい」 と言った。
 「今度また、行こうね」 とママが応えると、
 「大ちゃん、もう決めた!」 と声がして、しばらくのち、「もう お化け屋敷には入らない。」
 ときっぱり言い切った。
 もし私が馬だったら、両耳は揃って母子のほうに向いていただろう。その可愛さに耳をとられ、文庫本の文字は目に入ってこなくなった。
 「ねぇ、花やしきって 何で花やしきって言うか知ってる?」
 「さぁ… 何でだろう。」
 「あのね、ほんとは花の展示場だったんだって。だから花やしきって言うんだよ。」
 きっと幼稚園の遠足で花やしきに行き、その事前学習で先生に教わったのだろう。好奇心のある子なんだな、と思っていたら、今度は鉄道の路線図に目を向けた。
 図形として鉄道路線をとらえている上に、いくらか漢字もよめるらしい。
 「おしあげ(押上)。 次は、いし(石)…つみいし?」
 「え? ああ、たていし(立石)よ。」
 「あれは、しすい(酒々井)。」
 「すごいね。『しすい』なんて読める人いないよ。よく知ってたね。」
 「お酒の名前みたいだね。」
 酒々井からたどって、路線図のはじを指さし、
 「成田、空港第二ビル、成田空港。」
 と唱える。ここで二人が降りる駅に着いた。ドアが開く前に子どもが、ママに、
 「でも、字はほとんど読めてないよ。知ってただけ。」
 と照れくさそうに言い訳した。
 リュックを揺らす後ろ姿に、「すぐに本当に読めるようになるよ」と無言のエールを送った。

 京成線からJRとバスを乗り継いで、横浜にある実家へ向かった。
 バス停から実家へ歩いていると、小学生の時一番仲良しだった子の家の門の前に、
「ゆずがたくさんなりました。小さいけどご自由にお持ちください。」 と書かれた紙と黄色に輝くゆずが一籠置いてあった。いったん実家によって荷物をおろし、お礼のお手紙を書いて今も旧友の住む家へ行った。かわいいゆずを4個いただいて、籠の下に、旧姓のままひらがなで自分の名前を書き、小学生の時の呼び名で宛名を書いた手紙を置いた。
 明日は冬至。一番日が短い日だが、この日を境にまた日が長くなる。ゆずやかぼちゃのような太陽の色を体に取り入れると、健康で幸せになれるという。
 実家からの帰り道、カバンの中に小さなお日様が4つも入っていると思うと、うれしくなった。

12月12日
 飼い亀を冬眠させた。
 毎年、今年は暑かったとか寒かったとか、様々に評するけれど、結局いつの間にか季節は帳尻を合わせている。二十四節気の大雪を過ぎる頃から朝晩の寒さが身に沁みるようになり、亀も部屋の隅のムートンマットの下にもぐり込んで顔を出さなくなる。
 昨年は12月11日に冬眠水槽に入った。今年もそろそろかなと思い、昨日、深いバケツに黒土と水を入れ、こねて泥んこにした。
 そして今朝、室内から外に亀を連れ出した。まだ眠ってはおらず、抱き上げられると私の胸の中で「クゥー キュー」とあいさつするように鳴いた。昨日作った泥んこに更に水を足し、亀を入れる。亀の上に各地で集めた落ち葉のふとんをかけて、フタを閉めた。
 これでもう亀は寒くない。今年も多くの卵を産み、脱皮して一回り大きくなり、お散歩の保育園児や近所の幼児とたくさんの握手をした。ひととおりの仕事をつつがなく終え、あとは春まで深く眠るだけだ。
 亀を寝かせて、眠るわけにはゆかない人間は、そのあと、温泉施設へと出かけた。

              今年の亀の様子はこんな感じでした。


12月6日
 昨晩、外に出て見上げると 月が出ていた。大きな月だった。
 月を見ながら特にあてもなく歩いた。あとから今年最大の満月の翌日だったと知った。
 今晩の月は、大盛りのご飯をちょっと食べたあとのようだった。月は上の方から欠けていた。
 何も考えたくない時でも、左右の足を交互に出してさえいれば、どこかへ進んでゆく。月を見ると、月もこちらを見ているように感じる。
 川に挟まれた土地柄で、どこをどう歩いてもそのうち土手にぶつかる。橋を渡れば知らない街になるところまで行き、橋を越えずにもとの方向へ戻ってゆく。
 夜の厨房で、昼食に買ったフランスパンの残りでフレンチトーストの支度をした。豆乳とハチミツと砂糖の液に切ったパンを沈める。手を動かしていると、フライパンでバターがじわっと溶けてゆく音と香りが浮かんでくる。
 一晩じっくり浸かったパンが待っている、明日の朝が楽しみだ。
 月と食欲を友に、明日も良い日になるだろう。

11月のユーコさん勝手におしゃべり
それ以前の「おしゃべり」