『ユーコさん勝手におしゃべり』 バックナンバー目次

8月29日
 台風が寒風をつれてきたのか、昨日から急に肌寒くなった。8月は台風と共にやってきて台風と共に去るらしい。
 数日前まで、朝タンスを開けても、パジャマを脱いだままボー然とし、「この気温でいったい何を着ろというのか」と思っていた。タンスの中のサマーセーターを見て、「夏物でしょ? こんなのいつ着られるのよ」と言っていたそのサマーセーターを、「アラ、やっぱり着る時あるんだわ」と照れ笑いしつつ着用している。また明日から気温も戻るらしい。台風のおかげで猛暑といわれても、水不足にならなかったことに感謝し、残りの夏を楽しもう。

8月26日
 ああ、ありがたい。ちょっと疲れて気持ちが弱っている時に、一番うれしいのはお客様の声だ。青森からのメールに「秋祭りの笛、太鼓の練習の音色が響いております。 秋模様が、すぐそこまで来ている十和田です。 東京は、まだ残暑厳しいのでしょうね。」とあった。
「はい、東京は残暑です。でもね、今日、近所の堀切菖蒲園に萩のトンネルの出来具合を見に行ったんだ。最初の一枝が咲いていて秋が近いと感じたよ。」と心の中で返事を送りました。
 この夏、いつもより少し多めに仕事をしてみました。誰もせかしてはいないのに自分でノルマを決めてしまうと、何だかせかされているような気がして焦ります。おかしなことです。
 本屋が好きなので、いつもと違う街に出かけると、本屋さんを覗いてぐるっと一周まわります。昨日も一件行きました。そそる文句で「ガンバレ」とか「ガンバルナ」と教示する流行の自己啓発本のコーナーがあります。となりにビジネス書コーナーがあり、いままでと同じことをしているのは、立ち止まっているのではなく後退しているのだ、なんてけしかけています。何も買わずに外に出て、
 「新刊屋さんは売れる本を売らなくてはいけないから、大変だなぁ」
と思いました。いくら忙しくしてると言っても、探している人ひとりだけにいつかたどり着けばいい古本屋という商売が有り難いものに思えてきました。これも探し物のあるお客様のおかげですね。これからもよろしくお願いします。

8月25日 
 先日、発送のためにいつも通っている郵便局で、「オレオレ詐欺」未遂に出会いました。私が郵便窓口に荷物を持って行くと、となりに郵便局の電話の子機を持ったおじさまが、「だって、○○が泣いて電話してきて…」と話している。「エ…」と思って、おじさまの方を向くと手にした振込用紙の金額欄に\1000000の文字―。私が発送手続をしている間も電話は続き、「そうか、じゃ違うんだな」と確認して電話は終りました。おじさまがずっとそばにいた局長に礼を言い、「交番に行ったほうがいいかな」ときき、局長に「すぐ行った方がいいですよ」と言われて外へ出て行きました。その後局長が「ああ危なかった。オレオレ詐欺に100万円振り込んでしまうところだった。」と言いました。何かおかしいと思った局員さんによって未遂で済んだけれど、こんなに身近にお年寄りをだます現場があるなんて、と暗い気持ちになりました。手口はどんどん巧妙化して、次々斬新なシナリオが書かれているようです。
 悪い人がいることはみんなわかっているけれど、この世の仕組みの基本はやっぱり善意で築かれているので、ちょっとつけこもうと思えば穴はいくらでもあるのでしょう。圧倒的な数の善意を、これからも信じ続けたい一方で、ため息の出るようなこともおこります。水戸黄門か大岡越前なら、すぐ解決しちゃうんだけどなぁ。悔しいなぁ。

8月6日
 店主は没頭の人である。
 中学時代は種々様々な部活に顔を出し熱中し、けっして長続きせず、という生活を送ったらしい。(いろんなもののルールや取り扱いを少しずつ知っている)
 高校時代は、絵をかくこととバイクに乗って出かけることに全てをかけ、そのエネルギーを蓄えるために授業中はひたすら眠ったと言っていた。昼食はクリームパンを常食とし、親からもらった昼食代をせっせと貯めて使い込んだそうだ。
 その後紆余曲折を経て、古本屋のイスに納まる。が、昔はよく、「オレ、古本屋以外ならどんな職業にも向いていると思うんだけどなぁ。なんで、古本屋なんだろう。」とぼやいていた。
 しかし、ある時自ら古本屋の中にデザイン・工作部門をみつけだし、数年前からは、天職と化している。その話はまた別におくとして、今、彼が熱中しているのは水泳だ。本人が否定しても絶対そうだ。2・3年前からジムのプールでよく泳いではいたし、水泳のコーチから指導も受けていた。が、今春ジムを変ってからはもう、一直線だ。体が痛いのきついのと言いながら、嬉々としてコーチングを受けていた。そのうちそこの区の大会で入賞常連の人とか、若い時から長年スイマーだという人と友達になる。というか、ふつうは、そういう人が泳ぎ始めると周りがひくらしいのだが、彼は人なつこく平気で彼らに挑み、笑顔で負けるので、自然に仲間に入ってたらしい。そのうちチームを組んで大会に出ようという話になった。団体メドレーに出場するにあたってメンバーになれというらしい。特訓が始まった。仕事を終えて夕食をとってからジムに行き、11時半か12時頃ゼーゼー言って帰ってくる。体中にインドメタシン配合軟膏を塗りまくり、「キツイ、今さらムリだ。」と言い出す。「じゃあやめればいいのに。やめますって言うだけでしょ。」と私は簡単に言うが、キツイと楽しいは比例するらしく、話はどんどん進んでいった。ただ、店主以外のメンバーは皆彼より10歳も若く、10年たったらおのれの肉体がどのようになるかは未知なのだろう。「大会入賞のカギは青木さんにかかっている」と言われているそうだ。青木さんの速さではなく、大会未経験の青木さんがどれだけ足をひっぱるか、である。ある日店主が「これじゃオレたち、アスリートみたいだ」ともらすと、「えっ! 違うんですか?」と驚かれたと言っていた。最早健康維持のためのジムではなく、大会入賞のためにはムリしてもがんばるジム通い、なのであった。でも、つらいとか何とか言いつつ、団体種目だけでなく、個人種目にもちゃっかりエントリーしていて、「あれとこれと、それに出る」なんて言っているので、本人は表向きぼやきつつ、内心メラメラ燃えているのだろう。喜ばしいことである。大会が今月末に近づき、仕事の合間に時間をとってはプールに通っている。店主元気で留守がいい、ってか。

8月5日
 今、うちのトイレには某通信教育会社の広告コピー
 「明日からやろうと40回言うと、 夏休みは終わります。」
が貼ってある。学生が夏休みに入る直前の新聞に載っていた広告記事で、このコピーの下に軽妙なマンガが入りその下に「今日からやろう!」と小さくかいてある。見たとたん、「ウワォ」とうなり切り抜いて毎日見るトイレの壁に貼った。見るたび身につまされるコピーだ。が、見慣れてくると、「あさってからやろうと言えば、言うのは20回ですむ」とか「来年やろうなら1回ですむ」と、かけ声さえ節約する知恵(悪知恵)が浮かんで自分のズボラさに苦笑した。
 と夕べここまで書いて、一夜明け、今朝新宿小田急に「牧野四子吉の世界」展を見に行った。「広辞苑」や「ジャポニカ大日本百科事典」の挿絵を描いた生物画家の作品展で、その絵からは、愛情をそそぐということばが自然に浮かんでくる。小学校の頃見た教科書の絵はこの人の手になるもので、知らないうちにどれ位の子供たちが、この人の絵に育てられたことだろう。愛情をそそぐことと、節約する(手を抜く)ことは全く対極にあると深く感じ入った。
 帰宅してトイレに入っても、広告コピーにつっこみをいれることは自主規制して、今すぐ実にならなくても明日のためにできることを、今日ちゃんとやろうと、心に刻む今日の私であった。

8月1日
 台風が灼熱をさらって行ったのか、夕べはきれいな月が見えた。青空に白い雲がうかび、快い風と共に8月がやってきた。
 近所に買い物に出たついでにオフシーズンの堀切菖蒲園をのぞきに行く。誰もいないかと思ったら、ザリガニをとる男の子とおじいちゃんがいた。ひもに結んださきいかでザリガニをとる二人の真剣さに、足音もひそまる。眺めているうちに、自分も男の子になった気分。首にびっしり汗をかき、夕方家に帰ると首に汚れの黒い筋ができている。あぁ、懐かしいイメージだ。子供特有の黒い筋、見なくなって何年たつだろう。
 楽しい気持ちで二度咲きの藤の花の咲く園内を歩く。毎年楽しみにしている萩のトンネル、去年は天候不順でがっかりだったが、今年はきれいにトンネルを形成していて、「10月になったらまたおいで、夢を見せてあげる」と言っている。
 2ヵ月後の楽しみの種をもらって、店に帰った。さあ仕事しよう。

2004年7月のユーコさん勝手におしゃべり
2004年6月の
ユーコさん勝手におしゃべり
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