ユーコさん勝手におしゃべり

6月26日
 梅雨らしい梅雨である。毎日天気に振り回される。
 曇天から一変雨天、照れば猛暑と一日の間にもくるくる変わる。朝から空にはいろんな色の雲が流れていて、出かけた先で雨が降っているかどうかは運まかせといった日が続く。
 でもおかげで今年は水不足にはならずに済みそうでほっとしている。
 今日は、耳の喜ぶ日だ。たまたま聞こえてきた人々の会話がとてもおもしろかったのだ。
 まず昼食をとりに行ったファミレスで、右隣に家族連れが来た。若いパパと、2・3歳の男の子と赤ちゃんを抱っこしたママだった。
 男の子が「デザートだけでいい」と言う。パパとママは、「ちゃんと食べないと後でおなかすくよ」とお子様カレーおもちゃつきセットを勧めるが、男の子は聞かない。ママが「ここには、そういうのないから後でコンビニ行ってあげる」と言ったが、男の子は目ざとくメニュー表の中から、「あった」と見つける。店員さんを呼ぶチャイムを見つめる男の子にママが、「まだママたち決まってないから呼んじゃ駄目だよ」と念を押した、が、男の子はピンポーン・ピンポーンと2回押し。店員さんが来るや否や、「フルーツソフトクリーム、カップで」と注文した。仕方なくパパとママもオーダーして、「アイスは今日これで終わりだからね」とお小言を言われながらも、うれしそうにソフトクリームを食べていた。「いちごはママにあげるからね」と笑った。
 私の左隣にはテニス部のユニフォーム姿の高校生グループがいて、中間テストの順位の話を明るくしていた。「8位をとった○○は、プリントを一言一句たがわず全部覚えた」そうで、一晩かそこいらのうちにプリントを全部きれいに覚えて、すぐまたきれいに忘れられる、柔軟な高校時代の脳みそを思い出し懐かしかった。
 店舗に戻って、店番する。私の席の背中側にはウインドウ越しに均一台がある。そこへ老夫婦がやってきた。杖をついた老紳士が立ち止まって均一本を見る。
 奥様 「買いたいの?」
 旦那さん 「買いたい。全部買いたい!」
 「そう。これかな、と思った。」 と一冊指す。
 「持ってる。それは、持ってる。」 
 「こんな字の小さいの、読めるの?」 と奥様に言われながら、旦那さんが一冊に決め、奥様が店内に会計にやってきた。日本現代文学全集のうちの一巻だ。好きな作家が入っているのだろう。奥様も旦那さんもよい笑顔だった。
 ウインドウにコピーが貼ってある啄木の、
 「本を買ひたし 本を買ひたしと
  あてつけのつもりではなけれど 妻に言ひてみる」
 ということばが頭に浮かんだ。
 今日は何だか、いい日だ、と思った。

6月17日
 夕べ一晩、何度もくり返し、麦畑の夢をみた。小麦粉を心配する夢だった。
 なんでだろうといぶかしく思っていたが、明け方気付いた。来週山梨に行く予定があるからだ。河口湖畔に泊るが、その前に富士吉田のうどん屋さんに寄るのを楽しみにしている。
 4月の末には群馬に行った。榛名湖畔の観光馬車の御者さんが、「昨秋、飯舘村から仔馬を一頭買ったんだ。『お前はうちに来てよかったなぁ』って家族で声をかけてんだ。」と言っていた。「飯舘のはいい馬なんだ…」ということばが忘れられない。
 5月には栃木へ佐野ラーメンを食べに行った。田んぼにそば畑、麦畑はいつも幸せをもたらしてくれる。
 来月は、奥日光へ行くつもりだ。いつもはいっぱいでなかなかとれない宿が、電話をするとスッと予約できた。この夏こそ避暑が必要なはずだが、日々発表される「数値」が、二の足を踏ませているのだろうか。
 観光地も農作物も毎日「数値」に振りまわされている。一年間丹精込めた作物が、無事に産地を出発できることは、こんなにも有り難い、大事なことなのだった。

6月10日
 6月10日である。以前堀切菖蒲園に「6月10日前後が見頃」の旨表示があったので、10日に行ってみた。庭師さんの見立てに間違いなく、全満開の一歩手前のういういしくも咲きほころび、という絶妙の加減だった。
 梅雨時のこととて、イベントのある日曜は今年も降雨となりそうだ。濡れてまた良しの花ながら、狭い園内、カメラを構える人も多く、傘のすれ違いは難儀だろう。
 降りそうで降らない、水持ちのよいスポンジのような雲が空を支えてくれると良いのだけれど。

6月6日
 上野の国立博物館に「写楽展」を観に行く。圧巻の展示数で、人気もうなずけるものだった。
 万朶の桜のころ、桜と写楽の組合せでみるはずだった会期が、震災で国立博物館が一時休館となり延期された。今はすっかり葉桜の上野・清水観音堂前の並木道は平和を絵にかいたような光景だ。
 盛況の国立博物館を出て、ここ数年来と比べて驚くほど外国人比率の少ない上野の森を帰路についた。

6月5日
 菖蒲が咲き、あじさいが色づき、ムラサキツユクサが開いて、6月が来た。
 街は菖蒲まつりの始まりとともに、いつもよりにぎやかになった。
 スケジュールが組まれ、それがこなされてゆく。日常が続くことを、観客も主催者も皆が願っている。
 まだ時々余震を感じる。
 いつもと同じまつりが、いつもと違うおごそかさを持つ今夏だ。

5月のユーコさん勝手におしゃべり
それ以前の
「おしゃべり」