ユーコさん勝手におしゃべり

10月25日
 山梨の西沢渓谷へ行く。
 まったき水量。圧倒的な透明度の水が、滝つぼで濃淡のエメラルドグリーンになる。見るべき滝はいくつもあり、道は愉しい。
 紅葉がはじまり、山は色に満ちている。一周約10Km、朝早く出れば、午前中で周回することができる。
 午後は近くの鼓川温泉でゆっくり入浴と休憩。
 朝4時に車で出発、18時帰還、気候も良し、秋を満喫した。

10月19日
 秋晴れの一日、横浜にある両親の家に出かけた。植物好きの母が、「今年は緑のカーテン」と称して、家の周りぐるりにいろいろ育てた。朝顔、ゴーヤ、冬瓜、西瓜、きゅうり。みな咲き、みな実った。夏は壮観だったが、もう終わりだ。
 両親は一階に住み、二階はアパートにして貸しているので、二階のベランダ近くまで這い上った朝顔の蔓は迷惑だろうと思い、
 「そろそろ刈らないとね」 と言うと、母は、
 「もう根は切ったのよ。でもまだ明日咲くのがあるの」 と言う。たくましいものだ。
 日当たりのせいか、何故か、飼ったり植えたりしたものがよく育つ家なのだ。
 夜、両親につきあってテレビの歌謡番組を見た。8時半ごろ父が
 「オイ、金魚がそろそろエサくれっていってるよ」 と母に言う。テレビの横の水槽で様々な色や大きさの金魚が水面近くにひらひら集まっている。
 「まだよ、エサはいつも8時45分だもの」 と母が応える。半端な時間だがテレビの都合なのか、夜の8時45分にエサをやることにしているらしい。
 「じゃあ、次の北島三郎の歌が終わったらエサの時間だって、金魚たち話し合ってるね、きっと。」 と言うと、「そうだな」 と父も同意する。
 金魚もテレビの動向をうかがっているように見えた。
 時間が迫るにつれ金魚も活発になる。
 歌謡番組がおわり、8時45分にエサにありついた。大きさや配合の違うエサを時間差で入れると、それぞれ好みのものをつついて食べる。
 「毎日人間の夕食後にエサをもらっているこの金魚たちは、いつ寝るのか」 と尋ねると、「昼間、12時ごろはいつも静かにしてるから眠っているようだよ」 と母が言った。
 金魚も時間がわかるのか。老夫婦のペースに合わせて、楽しませたり休んだり、ペットとしてのライフスタイルをまっとうしているらしい。

10月16日
 紅葉の季節がやってきた。先週は、奥日光・戦場ヶ原へ出かけた。台風の影響で4年ぶりに小田代ヶ原に湖が出現したというので、カメラを持った人で賑わっていた。つたの紅葉が見事だった。
 紅葉は葉っぱの一年の終わりを告げる合図だ。紅葉したら落葉する、同じ葉はもう萌え出てこない。
 長いこと亀を飼っていて、冬は土とたっぷりの落ち葉に埋まって眠る。毎年各地の紅葉に出かけるのは、亀に冬眠用のおふとんをしつらえる為でもある。
 春になると亀は、「今生まれた」という顔つきで出てきて、こちらを知らない人扱いする。半年の付き合いですっかり馴れたはずなのに、手から餌も食べないし、じっとみつめて後を追ったりもしない。毎年一から、信頼関係を築いていく。
 しかし樹木同様体は大きくなり、16年目の今年は初めての産卵もした。
 10月になりすでに餌は口にしなくなった。まだ元気に散歩しているが、あと一ヶ月ほどで冬眠に入るだろう。
 木の葉の一年のような繰り返しで、また無垢な気持ちで来春を迎える。
 紅葉は「何で こんなに 」と聞きたくなるほど、きれいで淋しい。
 冬眠もまた、楽しいような淋しいような作業だ。

10月11日
 店主は買い物好きである。マメな人で、「人間、動いていないと腐る」と思っているのだろうと、私は常々考えている。
 先日、自転車でよく行くスーパーに行き、ひどく重そうに袋を抱えて帰ってきた。ゴロンと袋から床に出した黄緑色に薄黄緑の縞のある楕円。
 「何? 冬瓜買ったの? こーんなに大きいの?」
 「イヤ ちがうよ」
 「じゃあ 何コレ」
 「あのスーパーの人がさ、店頭で箱を開けて、『甘いよこれ、今回一回きりだよ』って言うんで、つい買ってきた。」
 と言う。顔見知りの青果売り場のお兄さんの、手際のいいお勧め品の口上が頭に浮かぶ。
 大きな楕円の青果に貼ってあるシールを見ると、『YOSEMITE  WATERMELON』とあった。ヨセミテって、あの熊で有名なヨセミテ国立公園のあるアメリカのヨセミテか、とまず思った。それからwatermelon…って、
 「スイカ? 今ごろ?」
 「そうスイカ。アメリカのスイカだって。」
 「へぇ…」
 スティーブン・キング原作の映画「スタンド・バイ・ミー」の夏を連想し、何曲か鼻唄が出た。
 切らないことには冷蔵庫にも入らない大きなスイカで、その日は、店主がマジックで目鼻と耳を書いてブタの似姿となり、床にころがっていた。横に寝ると冷たくて気持ちよかった。
 そうこうするうちに、ふとしたことで店主が口の中を切り大きな口内炎ができてしまった。痛くて何も食べられないという。体は動くからお腹はすく。どうも困ったという時に、スイカが活躍した。ガブリとはいただけないが、けっこう実が締まっているので、1センチ角くらいに切っても崩れない。噛んで口内炎の患部にあてることなく喉をとおるようだ。
 「これならイケる」
 と言うので、店主は大鉢にいっぱいのスイカの細切れを食べた。
 忘れられないアメリカスイカとの出会いとなった。

10月6日
 「わぁ たくさんのひつじ」
 と空を見上げて思った9月の終わり。
 10月の声が聞こえたように、10月に入ったとたん金木犀がいっせいに咲きだした。ふわっとどこからともなく香ってくる。
 季節が動くのを誰も止められない。
 1ヶ月ほど風俗画報のバックナンバーを見続けて過ごした。その間、その前にやっていた仕事は中断していた。全冊方が付いたので、前の仕事に戻ろうと机上に前のノートを捜した。書きかけのままの紙と品番シールとともに、大判のタオルハンカチがキチンとたたんで置いてあった。
 たった半月ほどなのに黄色いハンカチが不思議に見えた。今夏は暑かったのだ。本を両腕に運んできて机の横に降ろすと、それだけで顔にも首にも汗がにじんだ。
 タオルは必需品だった。
 今はちょうどいい気候で、そんなことをすっかり忘れていた。「忘れもの」を扱うようにタオルをたたみ直して洗濯に回した。
 読書の秋だ。本運びにも精を出し、少しでもお客様の読書の秋の悦びに貢献しよう、と思う秋の一場面だった。

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