ユーコさん勝手におしゃべり

10月24日
 奥日光の紅葉だ。
 予報と予想で紅葉の見ごろを占い、24日の奥日光行きが決まった。
 朝5時に車で出発。東北自動車道と日光宇都宮道路を走り、いろは坂を上る。上るにつれ山はいろどりを増す。8時には中禅寺湖畔に到着した。気温は3度。空気が冷たい。
 紅葉シーズン真っ盛りでこの時間でも竜頭の滝の駐車場は続々と車で埋まっていく。車をとめ、手袋と帽子、デイパックのハイキングスタイルで菖蒲が浜へ歩き出す。
 夏には緑の一丸となって涼しさを演出した山々が、今は色とりどりの毛糸玉となってセーターを編みこんでいるようだ。
 歩きながら足元にきれいな葉色が目につくと、拾って持参のビニール袋に入れる。飼い亀へのおみやげだ。赤や黄や橙色の大小さまざまな葉が集まった。
 中禅寺湖畔を1時間半ほど歩き、千手ヶ浜からハイブリッドバスに乗る。小田代原経由で石楠花橋で下車、ここから竜頭の滝沿いに道を下る。ハイキングコースを歩いている間は数えるほどしか人と会わなかったが、竜頭の滝の周りはたいへんなにぎわいだった。
 駐車場に戻り、中宮祠まで車で降りる。お気に入りのパン屋さんでパンを買い、歌が浜の湖畔のベンチでコーヒーを淹れて昼食にする。
 おなかも心も満足して、いろは坂が混まないうちに下山する。ふもとのやしおの湯につかり、ツルツルの湯を楽しんだ。温泉の休憩室で休息して、再び高速道路で6時には帰宅。
 帰宅後、亀の水槽に落ち葉を入れてやる。亀はさっそく大きな落ち葉の下にもぐりこみ、葉の間から顔だけ出していた。
 奥日光を口開けに、紅葉シーズンがやってきた。東京の紅葉が終わり、彼女がすっかり冬眠するまで、各地の紅葉のお布団が今年も亀の背中に乗るだろう。

10月16日
 今朝、プランターの植え替えをした。
 シャベルを持って終わった夏花を掘っていると、ふと、昔「神様か石になりたい」と考えていたことを思い出した。思春期の頃、人と関係をとり結ぶことのむずかしさに、日記に
 「神様か石になりたい。神様は絶対だもの。 でなければ何も感じず考えずそこにいる石になりたい。」と書いた。いやおうなく大人になる直前まで、長らくそう思っていた。
 そして今日、植えるべく用意した苗や種を眺め、土をかきまわしながら、
 「私、今神様にも石にもなっている」 と感じた。
 ほんの小さな世界だけれど、将来を見越して手を施す。このプランターの中のグランドデザインは私のものだ。
 植えた後のプランターは風景に溶け込み、前からそこにあったようにそこにある。私もまた自分のしたことを忘れて、ただその成長や失敗とともにある石のような人になる。
 案外なりたい自分になったもかもしれないなとひとりごちて、もうひとつ、半年ほど前に気付いたことを思い出す。
 やはり思春期の頃、私はノートのはじによく女の人の半顔を書いた。いたずら書きのようなもので、勉強の合間やヒマな時、片方だけのやけに垂れた目が横目でこちらを見ていて、あとは鼻と唇、それだけで輪郭もなにもない。当時流行った少女マンガをまねて、私もかわいい女の子やきれいな女性を描いたけれど、ノートのはじに書くそのおきまりの顔は、きれいでもかわいらしくもないしストーリーも持っていない。ただいたずらに書いていると、自分にここちいいものだった。
 そして年を経て、そんなことはすっかり忘れていたある日、壁にかかった鏡を横目でチラと見た自分に驚いた。「会ったことある」と思ったのだ。ノートにはじによく描いたその顔が、半顔で鏡の中から私を見ていた。
 「あれは、私だったのか…」 何十年もたって、今わかったからといって、どうということはないけれど、あれから頻々と鏡の中の自分にあいさつするようになった。
 なりたい自分と理想の自分は違うのかもしれない。
 あきらめたことややり残したことも含めて、なるべくしてなった自分が、理想の自分とは違うけれど、無意識のうちに期待していたなりたい自分だったのかもしれない。

10月10日
 季節の循環を目撃する喜び。
 今朝、手入れをせんとハンギングプランターをくるりと回したら、葉の上に毎秋見かけるバッタが、しゅっとした顔を天に向けてとまっていた。
 「また会えたね」と、昨年とは違う個体ながら一方的にあいさつする。
 アイビーの葉群れの影になって目立たぬ植木鉢、「カラだったかな、何か植えようかな」と思っていたら、いくつも芽が出ていた。春咲きの球根が入っていたのだ。
 「クロッカスかな、ムスカリかな、水仙かな」
 春になったらアイビーの葉の間からニョキニョキ伸び出て開花し判明するだろう。何年か放っておける球根類は、咲き終ったらなるべく場所や数を忘れるようにしている。春の楽しみがひとつ増えた。
 朝晩すっかり涼しくなって、飼い亀は通常のエサを食べなくなった。ゆでた鶏肉とかエビとか、彼女にとって特別おいしいものだけ口にする。それでも先月までの、踊り出すほどの食欲は見られない。内臓が冬眠準備モードに入ったのだろう。食べなくても散歩だけはする。店主が出してやると喜々として歩きまわり穴を掘る。彼女を動かす本能に、今年も粛々と従うしかない。来月は冬眠用の落ち葉を集めに山へ行こう。

10月7日
 来春の夢をみる季節がやってきた。
 今年もミニチューリップの球根を買ってきた。4種4色の小さな球根10こを、どこに埋めようか、どう並べようか、楽しく悩む。
 先週から園芸店にパンジーやビオラの苗が出まわるようになって、さまざまな色と形に目うつりしながら眺めている。
 店の横の小さなスペースだが、季節が変わるごとに、次の季節の夢を見られる。
 今年のカレンダーがおわっても、来年のカレンダーがあるしあわせを、プランターの土をかきまわしながら、実感する。

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