ユーコさん勝手におしゃべり

12月21日
 星の数が一気に増えた。
 冴え冴えと寒い冬の空だ。
 相変わらず、週に2回横浜の父のもとに通っている。買い物をしたり、喋り相手になったり、93歳一人暮らしの父のところへ行くのは、昨年までは普通のことだったが、今年はいろいろ逡巡させられた。ケアマネージャーさんの、「不要不急ではありませんよ。大切なことです。」のことばで自分を励まし、一年を過ごした。
 常と変わらぬ帰宅時間だが、日がどんどん短くなって、空の暗さと星の輝きは、増していった。
 父のところへ行かない日は、6時に店を閉め、その後外へ出ることはないので、外で夜空を見上げることもない。見上げたところで、駅前商店街の路地の上には、細く長い空があるだけだ。
 実家は住宅地にあり、周りに高いビルはない。玄関を出ると、いきなり広い空がある。月と星と、時折行き交う飛行機の灯りを見ながらバス停まで歩く。
 日に日に寒くなる。こんなに冬至であることが意識される年は珍しい。
 帰宅後、ゆず湯に入った。小学生のころ仲良しだったお友達のうちのお庭のゆずだ。今年も門前に「ご自由にどうぞ」とカゴいっぱいのゆずが置いてあった。
 鮮やかな色と香りに包まれて目をつぶり、湯舟の中でしばし、小学生の子どもに戻る。
 明日からまた少しずつ日が長くなるのだな、と、寒さの中にも希望がみえた。

12月12日
 毎日お客様に本を送っている。過去のいつかの日に店に入ってきて、一冊ずつ値をつけられて、眠るように棚に収まり、再びピックアップされてここから旅立った本たちだ。
 ごくたまに、行った先から便りがある。今朝は、神戸のお客様からの通信の中に、
 「神戸も、冬枯れの美しい景色が、街の彼方にひろがっています。」
と、書かれていた。
 この一文で、坂の町の風景が目の前に拡がる。行ったことのないところでも、いや行ったことのないところだから余計に、イメージは浮かぶ。
 もしかしたら、この方の見ている景色と、私の思い描くものは違っているかもしれないけれど、それを許す自由が、文章にはある。
 ことばっていいな、と思う。

12月5日
 いきなり冬がやって来た。
 このところ小春日和が続き、野菜が安くなったと喜んでいた。
 「今年はまだあたたかいから、最高気温が10度以下になってから、外に出せばいいね」と言われ、飼いカメは、室内の自分用布団にくるまって寝ていた。
 昨日、朝から天気が良かったので、店主が、「メタセコイアを見に、水元公園でも行くか」と提案し、自転車で都立水元公園へ行った。水面がキラキラと輝き、野鳥を撮る人や釣り人が、あちこちゆったり座っている。ドレスアップしてウェディング写真を撮りに来たカップルとカメラマンも見られた。
 メタセコイア林は、オレンジに色づき、地面をフカフカの落葉で埋めていた。林の木漏れ日をあびたベンチで、近くのパン屋さんで買ったサンドイッチを食べ、明るい橙色の落葉をどっさり拾って帰路についた。途中、真っ赤なハゼノキの葉も加え、ビニール袋はにぎやかになって、自転車の前かごに積まれた。
 店の近くまで行くと、店の横によくカメを見に寄る母子の姿が見えた。いつも、小庭のカメのところにとっとっとっと走ってきて、「か め」 と呼んでくれる女の子は、今日はママの抱っこひもとケープに包まれて、小さなお顔だけ出していた。
 「カメは冬眠しました。 また春になったら会いに来てね」 という貼り紙を見て、ママが、
 「かめさん ねんねしてるんだって」 と言っているうしろから、店主と私が、「こんにちは」と声をかけた。
 店の横に自転車をとめて、店主が女の子に、「カメさん、見る?」 と聞く。
 「え? 寝てるよ」 と私が言うと、「いいから連れて来いよ」 と言うので、小庭の横のドアから店に入り、カメをくるまっている布団ごと抱いて外に出した。座布団大のカメ用布団の口を開くと、案の定カメは寝ている。
 「ねんねしてるね」とみんなでのぞきこむと、カメはそっと腕を伸ばし、片目だけほんの少し開けた。熟睡はしていないが、もう動く気はないらしい。しばらくみんなで眠っているカメを観察する。「カメさん ねんねだね。バイバイ」とママに言われ、女の子もカメと私たちにバイバイした。
 母子が行った後、「どうする?」と店主と顔を見合わせた。本格冬眠にはまだ早そうだったけれど、冬眠させることにした。
 水を入れてこねた黒土にカメを乗せ、とりためた落葉をたっぷりかける。今年は色とりどりきれいな落葉布団ができあがった。さらに水を足し入れて、冬眠バケツのフタをした。その時はよく晴れた散歩日和だったが、夕方からどんどん気温が下がった。
 そして今日、日差しはなく最高気温は8度だという。このいきなりの冬の到来に気付くことなく、カメはもう爆睡していることだろう。
 カメに会いに来てくれた母子のおかげで、今年の冬眠はベストタイミングだった。

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