ユーコさん勝手におしゃべり

4月29日
 天気が良いので散歩に出る。
 堀切菖蒲園は藤の盛りだ。長い房から香りが揺れ出る。今咲いているものだけでなく、様々な植物が着々粛々と準備をしている。これから秋まで、花の波状攻撃だ。
 藤の香り、ぼたんの香り、そしてびっしり詰まったあじさいのつぼみ。陽を浴びて、今世の中はかわいらしいものに満ちている。

 実にすばらしい芍薬の花だ。燃えたつ花びらを漸漸に宇宙にまでもひろげる。   (中勘助「氷を割る」より)

4月26日
 天候不順の4月がゆく。たけのこ梅雨といっている間に菜種梅雨となり、時々太陽が顔を出し、また掻き曇る。
 雨の降る間にも過ぎてゆく、季節を逃すまいと北関東へと旅に出る。関越自動車道に乗れば群馬は近い。まず、館林で下りて、つつじが岡公園へ。まるで着物の柄の中に入り込んだようで、何度行ってもこの時期のここは飽きることがない。そこから伊香保へ。ふもとはすっかり葉桜だが、車が山を登ってゆくと少しずつ葉は少なくなり桜花が見られる。
 次の朝は鶯の声で目が覚めた。ゆっくり朝風呂につかり、宿を出て伊香保から水沢へぬける道では、桜が満開だった。少しの標高の違いで季節の移ろうのがみられる。普段平らかな地面に暮らしているので、山のある地形が新鮮に感じられる。
 二日目のメインは、高崎のみさと芝桜公園。芝桜の記憶は小学校の入学前にさかのぼる。その頃自宅の庭に芝桜が植えてあった。芝桜は丈夫で毎年少しずつ増えていく。芝桜のピンク色が好きだった。
 花の記憶は、それを植えた人の記憶と重なり、芝桜を見ると若かった頃の母を思い出す。花の姿と重なってよみがえる記憶のあることを思うと、生きていることがうれしくなる。今、誰に認められることがなくても、自分がしている何かの行為が、フト誰かの心に残り、いつかその人の中でよみがえることがあるかもしれないから。

4月20日
 近所のスーパーでエスカレーターに乗っている時に、断片的に聞えてきた主婦二人の会話が気になって、頭の中で組み立ててみた。まず主婦は二人ともホットドックパンをカゴに入れていて、そのパンの話をしているらしかった。
 「かぼちゃがあったのよ」
 「かぼちゃは…合わないでしょ、甘くて。」
 「うん、でもその時たまたま、かぼちゃの煮たのがあったの。娘はいらないって言った。」
 「そうでしょ」
 「でも、だんなは黙って食べたのよねぇ。味なんてわからないんじゃない?」
 「それか、そういうもんだと思ったのよ、甘い具のやつ。
だってあなた、カレーパンだって言って出したわけじゃないでしょ」
 「それはそうだけど…」
 というもので、私の小耳は好奇心でワクワクしたけれど、そこでエスカレーターは一階につき、私は二人と別れレジへ向かった。
 想像力のふくらむ話だ。もしカレーパンといつわって煮かぼちゃパンを出されたら、衝撃的だろうと思う。できるならあの二人についていって、話の先を聞きたかった。

4月15日
 昨日、本をとりに書庫へゆく途中、堀切菖蒲園の駅前で信号待ちをしていると、目の端を黒いものが通った。上空、黒くて、少し赤い点があるような…、「つばめだ。」 今年初のつばめを見た。
 つばめは、改札を出た先のガード下の、毎年巣をつくるあたりを行ったり来たりしていた。今年も子育てがみられる幸せに感謝。
 店の横のプランターは、ピンクと白のミニチューリップが終わったと思ったら、黄色とピンクのが咲きはじめた。チューリップは品種豊富で開花期が少しずつ違うので、うれしさ長持ちだ。
 苗で買ったパンジーは冬の間から盛んに咲いているけれど、種から育てた自家製さんたちは、ようやく咲き出したところ。こちらもこの時間差がいとおしく、うれしい。
 ジャスミンも咲き始め、あじさいの若芽はつややかで美しい。これから忙しくなるぞ、と、湧き立つ気持でよく晴れた春の天を仰いだ。

4月8日
 今日は選挙で、近所の小学校へ投票に行くついでに、堀切菖蒲園へ寄ってみた。先月下旬東京に桜の開花宣言のでた頃に行った時には、「冬枯れの」ということばがふさわしく、ただせいせいと平らな園内だった。桜もまだ咲いていなくて、菖蒲の若葉が出ている他はただ茶色かった。それがほんの2週間の間に様変わり。藤棚は、カケラもなかったつぼみをすっかりふくらませ、「咲くぞ 咲くぞ」と勢いこんでいる。地面は桜吹雪の花びらで白く染まり、つつじは赤く、緑は濃くなった。
 昔の人が森には妖精がいると信じていたことがよくわかる。
 北の国ならば、この喜びはもっと大きかろう。
 南の国ならば、色はもっと多彩になるだろう。
いろいろなところの、様々な春のあり様を、想像するだけで楽しくなる。

4月7日
 今年は冬が暖かかったのに、桜が咲き出してから季節が逡巡しはじめて、なんだか空気が冷たくなった。それでも時が進んでいるのを、今日の日差しが教えてくれた。
 春から秋まで、店番の仕事の一つに日よけがある。この季節、北向きに建った店舗にも、午後はするどい西日がさす。外の台に出した本や、窓際の本が日に焼けないように日よけテントに遮光シートをかける。春秋は一枚、盛夏には二枚となる。それだけ太陽が動いて(本当は地球が動いて)いるのだ。冬の間は店舗に陽が入ってこないので、この作業はお休みとなる。今日、均一台に陽が当たった。「ああ、冬が、終わった。」 桜吹雪と共に、本格的に春がやってきた。
 皆様の手許に届くまで、本は、店員と遮光シートがお守りします。

4月1日
 それは早朝5:30だった。突然「夕焼け小焼けで 日がくれてぇ」の音楽で起こされた。外で防災無線がなっている。
 「外で遊んでいるお子さんは 車に気をつけて、おうちに帰りましょう」
カラスといっしょに帰りましょう…って。
 日暮れの時間の変化とともに夕方の「おうちに帰りましょう」コールも4:30、5:00、5:30 とかわる。たぶん、季節の変わり目で設定時間を変えたときに、午前・午後を間違えたのだろう。それとも、朝まで飲み歩いている方々への皮肉だろうか。
 もし、明日もあるとすれば、恐怖だ。
 夕方5:30にも、そしらぬ顔で同じ放送が流れた。その時、今日がエイプリルフールであることに気付いた。ありえないことだが、もしこれが、エイプリルフールイベントだとしたら、葛飾区もたいした大物だ。

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