ユーコさん勝手におしゃべり

10月27日
 雨もようの日が続いた。
毎朝の花柄摘みも、雨だと義務的な動きになる。でも今朝は、気がつくと「おはよう よく咲いたね」と花に声をかけていて、秋晴れなことを知った。晴れているから花に声をかけるのではなく、花に声をかけた故に空を見上げたら晴れていたのだ。
 笑えば楽しくなり、泣けば悲しくなる。怒りは怒りを呼び、ケンカは相手の怒号を受けてヒートアップする。
 ついプランターに声をかけてしまうのは、植物や虫や飼い亀のうれしさが私に伝染するからかもしれない。

10月19日
 秋が着々やってきた、北から、上から。先週は奥日光へ出かけた。前日の天気予報が午前中雨だったおかげで、普通なら大渋滞の紅葉のいろは坂をスイスイ登れた。大きくはずれた天気予報に喝さいだ。早朝の中禅寺湖・八丁出島を堪能し、湯の湖へ上がる。どんどん変化してゆく木々の色がよい。白樺はもう裸になり白い木肌が美しい。金精峠をぬけ栃木から群馬へ入り、四万温泉へ行く。こちらはまだ緑がまぶしい。
 翌日は谷川岳一の倉沢へ足を延ばし、秋を満喫。高度とともに揺らぐ季節を見ていると、自然の規則性にうたれる。紅葉はせみや蝶のようだ。長い幼虫の時を地道に過ごし自分に栄養を蓄え、さいごに舞い散り再び地の滋養となる。
 稲刈りが終わった田にはハサが並んでいる。刈り取りを待つ田の黄金に輝く穂に車窓から「いただきます」と手を合わせて通った。
 帰宅して、翌日、来春にむけて店横のプランターの入れ替え作業をする。夏の間にすっかり伸びたつる植物たちも散髪だ。来年に向けて根に栄養をためてもらおう。
 プランターを並べた小庭は人工的な自然だ。シーズンのおわりは季節がゆくのを黙ってみているだけだが、はじまりは自分でつけねばならない。今週は、ミニチューリップの球根を埋め込もう。小さなスペースでも季節はめぐる。来月に入ったら亀の水槽に落ち葉のふとんを入れてあげねば。

10月10日
 店舗の2階でうさぎを飼っている。店に出てくることはめったにないが、真夏のどうにも暑い日には、クーラーにあたりに店にいた。飼いだしてからもう13年程になる老うさぎである。年齢を感じさせない元気さで室内をかけまわっていたが、秋の気配の濃くなるころ、片方の目が白くにごってきた。白内障らしい。うさぎと人とでは時間の進み方が違う。「うさぎも白内障になるんだね」なんて話しているうちにも症状はすすみ、もう片方もよく見えていない気配になった。
 外に出たことがなく人見知りをするうさぎだ。たまたま店にいたときに新聞配達のお兄さんが来たことがあった。初めて見る人にそっとさわられると、長いまつげにみるみるうちに涙がたまり、泣いてしまった。今まで健康で、一度も医者に行ったことがないので、通院のストレスに耐えられそうもなく、様子をみることにした。
 急になくなった視界に気弱になったか、周囲を警戒するようになったので放し飼いをやめ、昼間もゲージに入れるようにした。アイドル的存在だった彼にもいよいよ老後がきたかと思ったが、その間も毛艶はよく食欲もあった。
 そして数日、彼は復活した。ゲージから出て家人に甘えたいとねだるようになり、以前とまるで同じではないけれど、ピョコピョコと走りまわっている。落ち込むのも早いが立ち直りも素晴らしい早さだった。
 彼と我とは寿命が違うのだということを知った。人の数か月を彼は数日で生きてしまう。
 彼には耳と鼻がある。それをもって、今置かれている事態にスマートに順応した。

 「あるがままを受け入れろ。
 くよくよしていて、何か得るものがあるのか?」
バリバリとキャベツの外葉を食べる背中が語っている。

10月4日
 10月は、台風が吹きさったあとの秋風とともにやってきた。雨続きのあとの晴天で、よい読書の秋が迎えられそうな予感がする。
 今日、店にお客様がやってきた。中年の男性で、本を1冊選んで差し出す時、
「この間、ここから送ってもらったんですよ」 とおっしゃる。
 本の分野から、頭の中でカラカラと推理をふくらます。間違えてはたいへんなので、「あの人かな」と思っても うかつなことは言えない。
 「いや何だかはまっちゃってね。電話でたのんだ…」
とおっしゃるから確信を持てた。
 「ああ、はいわかります。2冊お送りしましたね。」
 「読み出したらおもしろくなっちゃって、もう80冊位になるけど、まだいろいろあるね。」
 「お近くなんですか?」
 「いや近くないよ、○○市。でもちょうど今日はこっちに用があったから」
 「ありがとうございます。じゃ普段は郵送の方がいいですね。」
 まったく知らない人だが、その方の興味ある分野を知っているというだけで、知り合いのように会話がすすむ。お客様が、こちらの値付けや本のセレクトに信頼感をもってくださり、こちらはどうぞご覧くださいと棚をひらいている。
 店内は、古本屋とお客様でうまくバランスをとって、安定感のある空間を生み出している。
 古本屋は「何かにはまる人」を主な客層としている。それを、学者・研究者とよんでもオタクとよんでもいい。一様に謙虚で楽しげだ。
 見渡せば世の中は、はまり体質の人がはまる穴に満ちている。しかも本の中では、時間も空間も超えてはまり込むことができる。深かったり浅かったり、ひろかったり変形してたり。
 本を勝手に分類して、古本屋の存在も新しい穴を作るのに加担しているのかもしれない。

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